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保存版「交通事故で整骨院に通院してはいけない典型例」

私は元々事故被害者ですので、交通事故のことをお話しする際は
・交通事故をオモテウラから見てきたこと
・保険会社の代理店
そして何よりも
・自分が後遺障害を持っている元交通事故被害者
という立場で申し上げています。

何よりも基本的には被害者が正攻法できちんと解決できること、これが優先されています。

それに対して、医療従事者がどのように振る舞い対応することで、思いもよらないような
「医療従事者という名の二次加害者」
となることを回避するための、スキームお伝えしています。

私も免許を持っているわけですので、医療界・・・特に柔道整復師が世の役に立つことを願っているわけです。
なのでなるべく、活躍できる場を作るためのヒントはお伝えしていますが、時と場合によっては「手出しをしてはいけない」というケースもありますので、今回はその典型例にあたりましたのでご案内します。

事案の前提

・事故受傷したのは、あはき師である A さん
・2輪車運転中に、側面から来た自動車に衝突される。
・過失割合は10:90
・救急病院に搬送されてオペとなり、股関節の片方は「人工関節置換術」となり、反対は「大腿骨インプラントによる固定」のほかに、歯の損傷と、擦過傷
・病院での治療においては、早期より健康保険が適用されている
・救急病院に3週間、その後リハビリ病院1ヶ月の入院
・退院後は、職務復帰しながら通院リハビリを継続予定
・リハビリは主治医の元、理学療法士が行なっている
・保険会社も対応に問題がなく、休業損害も払われている

これが事故によるものですけれども、ここから付随した相談を受けることになりました。
損害賠償ではなく、治療環境によるものでしたので、弁護士法上も問題がないと判断し、回答いたしました。

質問の内容

・業務上整骨院を運営する会社と付き合いがある
・整骨院院長は旧知の間柄で、ベテランで腕もあることを重々承知している
・会社の方から、退院後の「交通事故の治療」を家の整骨院でも行ってほしいと依頼された
・こういった状況下において、保険会社の許可も必要ではあると思うが、許可をもらったとして通院して良いものでしょうか?

といった質問でした。

杉本の解答

『今回のケースにおいては、様々な条件並びに症状から鑑みて、整骨院通院に関してはお勧めできません』

でした。
これらにはきちんと理由がありますので、根拠をもって説明いたします

実際の症状と整骨院でできる施術とのバランスが悪い

今回の受傷において最も重いのは、人工関節置換術です。
これは骨盤骨並びに大腿骨への損傷が激しく、通常の整復治療の限界を超えていたので、人工関節置換術が採用されたとと思われます。
そして軽いのが擦過傷。
人工関節置換術の反対側においては、骨折後の固定のためインプラントが処置されています。

当人の現時点でのもっぱらの悩みは、
歩行時における、鼠径部~腸骨稜周辺にかけての、ひきつりを伴った動作痛
です。

この地点で、動作痛に対してのアプローチを施術で行うことに関しては、完全に否定できるものでもありません。
腕を持った人間が手術すれば効果は高いと思われます。

しかし、交通事故は損害賠償です。
制度法律に伴った対応が行われないと、支払われるものも支払われません。
次に続く理由が関係していることが重要です。

ちなみに、記載そびれていましたが、口腔内の歯の治療も柔道整復師が対応できる領域でもありません。

 

救急病院の入院中から健康保険が適用されていること

現時点で、医師の元で療養の給付が発動されています。

これは莫大になる治療費を、あえて抑制しなくてはならない・・・
という手術事案でもありますので、保険会社が被害者の了承を取った上で、健康保険の採用をされることが何ら不思議なことでもありません。

その後のリハビリ病院でも、被害者自身が健康保険を提示し、病院は健康保険の施行規則に則り、対応しています。

そして、退院後の通院を整骨院でも併用して行うとすれば、保険会社はほぼ100%「健康保険の使用」を条件に出してくるはずです。

「療養費」と「療養の給付」がガチンコになった場合の結果は・・・これは分かりますよね?
無駄な紛争発起にもなりかねません。
100歩譲って、保険会社の「健康保険の使用」の意図を汲んで、自由診療のまま単価抑制に協力したとしても、次の問題が出てきます。

医師の同意

今回の場合は、体に複数のメスが入っています
この状態において、主治医がどこの誰か分かっていない柔道整復師に対して「いいよいいよ」と、安易にリハビリを許可することは難しいと思われます。
保険会社も、医師の同意の上での施術を言ってくる可能性が高く、この環境下では難しいとしか言わざるを得ません。

仮に同意なしで施術した場合、最悪のケースで言うと、平成21年の大阪高裁判例のように、医師同意なしの施術とみなされ費用が認められないケースと同様になりかねません。

非観血的治療で止まっていれば、同意を得られる可能性はあったかもしれませんが・・・
今回のケースではそぐわないのです。

整骨院が「治療に関わる損害」に対しての理解が乏しいと思われること

そもそも今回なぜ健康保険が適用されているか?
「治療に関わる損害」に関する費用が、数百万単位になることが予想されることから、保険会社が成功して対応したと思います。

両側の股関節にオペ・・・特に片側は人工関節置換術が行われています。
もちろん仕事はできませんので、休業損害も発生しています。

単純に私がお話を伺った時点で、300万円を超える損害費用が想像できます。

健康保険が使用されても、単にレセプト単価が抑制されているだけで、健康保険単価の10割を保険会社が払うことになるのですから、自賠責保険から適用される120万円などは、振り切っているわけです。

私が
「交通事故=自賠責保険という概念を止めなさい」
と勉強会でも申し上げているのは、すぐに「自賠責が使えるから高単価施術ができる」・・・という思考パターンをこの世から駆逐したいからです。

もうすでに自賠責保険から支払われる金銭は振り切っているわけですから、ここで整骨院が治療に参加したとしても、自腹を切る保険会社としては「なぜわざわざ支払いが増えることに同意しなくてはいけないのか?」という思考が生まれて当然です。

ここで柔道整復師が、自賠責保険を使って施術を出来るという権限を主張したとしても、自賠責保険がそもそも民法709条基本としていますから、「なぜその治療が必要なのか」となる「因果相当関係の立証責任」を果たさねばなりませんので、そこが補完されない限りは認められるのは困難です。

Aさんの過失責任の問題

Aさんには10%の過失責任があります
大雑把な事故の形態表現としては「被害者」ではありますが、「100%被害者」ではありません。
10%は自己責任が発生します。
これは蓄積された事故状態を元にした判例をベースにしていることですから、今回も当然適用されます。

そして、治療に関わる損害が120万円を超えているので、自賠責保険で填補される金額を超えています。

自賠責保険は範囲内であるならば過失は問いませんが、損害賠償の総額が範囲を超えていますので、最初の1円から10%の自己負担が発生します。

仮に300万円だとすれば、30万円はAさんが負担しなくてはいけません

実際の負担支払いが発生していないのであれば、その場合はプラスで上がってくる金額・・・例えば慰謝料から相殺されます。
仮に整骨院への支払いが20万円だったとすれば、2万円は A さんが負担となること分かってAさんに通えって言っているのかな?
自賠責で取り放題とか考えていない?
目の前の、身内でもある A さんの、慰謝料の内から10%が自院に入ることになる事実も分かっている?。

交通事故の実態をわかっていれば「手術をしている」と言う時点で、 「交通事故=自賠責保険」と言う短絡的思考パターンから回避できます。

だから私は、勉強会においても、儲ける方法よりも交通事故の実態を知ってもらうことを最優先しているのです。
これがいつも私が言っている「0円治療広告はやめなさい」という典型例です。

この状況下で何が何でも整骨院で治療するには

まず私が A さんに回答したのは「整骨院費用は100%個人負担で・・・という覚悟があればいいです」
でした。
つまり損害賠償の請求には乗せない。

私がこういったケースで懸念するのは、施術証明書の記載内容のレベルです。
すでに医師からは、医学的所見に基づいた「自賠責保険様式:診断書・診療報酬明細書」が毎月のように提出されています。
その中身も知らない施術証明書が提出された場合、内容によっては「診断書薄め」に利用されかねません。

要は「施術証明書」も、国に対する書類ではありますので、医師の出した診断書が正しいことが書いてあっても、施術証明書にチャランポランなことが書いてあれば、重箱の隅をつついている自賠責損害調査事務所ですので、「あ・・・大したことないのね」と言う味噌をつけられかねません。

事実、そういった損害賠償崩壊を柔道整復師が行なっている事例を何回も見てきていますので、避けねばならないこととカテゴライズしています。
(証拠を見たいのであればいつでも見せる事が出来ます)

したがって何が何でも整骨院で施術をするのであるならば、カルテ並びに施術証明書を私が全てチェックする・・・ そして私が指示したことには100%したがってもらう・・・これが必要です。

もちろん、症状の捏造、日数の水増し、などがあり私のチェックで発覚すれば、その柔整師が過去の人生で経験したことがないようなトッチン責めを経験させて差し上げます。
ベテランだろうが、腕があろうが、そんなことは損害賠償上全く関係ありませんので、容赦しません。

結果的には

『今回は私の方から整骨院社長に説明します。高単価な施術を期待したと思うんですが、杉本さんの説明で非常によくわかりました。個人的には院長には杉本さんから指導していただきたいぐらいです。そういった交通事故のことを理解しないままに扱われる・・・被害者になってよく分かりますが、とんでもないことですね。やはり日常生活に戻ると、右股関節への負担が大きくなって、歩行時の痛みがぶり返しています。痛みが緩解するには、もう少し時間がかかりそうな気がします。リハビリ頑張ります。』
との事でした。

まとめ

・整骨院(柔道整復師)が介入していい場合と悪い場合がある
・腕や経験年数は、裁判所も考慮しない。損害賠償で大事なのは別なこと。
・健康保険の採用には意味がある場合が多い
・これらを踏まえると「交通事故の治療費は0円」なんて広告はしない方がいいというのがよく分かる
・交通事故を知るということは、自分自身も患者さんも守るということ

『医療従事者のための交通事故勉強会:2020年予定』 https://primecare.co.jp/workshop-info/

2月9日(日):東京ファースト・ベーシック
ファースト→9:15~11:50
ベーシック→13:00~19:00

3月1日(日):東京アドバンス 9:30~17:00

3月15日(日):大阪ファースト・ベーシック
ファースト→9:15~11:50
ベーシック→13:00~19:00

3月29日(日):大阪アドバンス 9:30~17:00

大阪勉強会は、昨今の事情鑑み、中止とさせていただきます。

4月19日(日):ElitePlus福岡 9:30~17:00

5月31日(日):ElitePlus東京 9:30~17:00

※HP内専用ページにて詳細発表済み

 

 

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